開高健/パニック・裸の王様

開高健/パニック・裸の王様
1960年 日本
283p 読書期間10日
『NHKドキュメントの如きシリアスな世界観』

 名前は知っているけれども読む機会が無かった作家。
本作は50年代に残した代表作を4編まとめたもの。
何らかの社会現象を捉えた
ドキュメンタリーのテレビ番組を見ているかのような読書だった気がする。
以下、4編中3編の感想をそれぞれ書いていく。

パニック
 開高健の出世作。120年に一度成るという笹の実を期に、ネズミが大量発生する。
その猛威に翻弄される人々、というあらすじ。
ただ一人、ネズミの大量発生を予知する青年、俊介を主人公として物語は語られる。
構成としてネズミが発生する事実が確定する前と、後に分かれており、
とにかく確定する前に於けるもどかしさが凄い。
「パニック」という題名からして、既に結末がある程度読める訳なのだが、
オオカミ少年を扱うがごとく、愚かな市役所職員の面々には本当に腹が立つ。
「自分たちに責任が及ぶかどうか。」「取り敢えず今、平穏ならそれでいい。」
それを口に出していたりはしないけれども、
でしゃばらずに集団として固まり何もしない愚かな奴らども。
俊介はそんな状況も受け入れて、先、先を読んで行動を起こしている。
しかし駄目。遂に大量発生。
ハッハッハッ、ザマーミロ!
ところが鼠は大暴れした後、集団として間違った選択をして滅ぶ。
人間に対する一方的な警告ではなく、群れの暴走、制御の取れなさを書いているという気がした。
一見、人間社会にとって一時のパニックで済んだ、という物語である。
しかしもう一方の社会は完膚なきまでに滅んでいる。
今、自分が周囲を顧みて、(あんまり難しい社会問題などは書きたくはないのだが)
身近なところでは原発問題がこれと似た状況にある気がする。
結局、行動を起こせないままに、取り返しのつかないところまで進んでしまってから気づく。
恐ろしい。

 巨人と玩具 
 お菓子メーカーの広告を巡る人々の駆け引きがテーマ。
素朴な少女がモデルとして起用されるのだが、あっという間に商品として消費され、
あっという間に素朴な魅力が失われる過程が残酷。
この間の、ペヤングやきそばのニュースを思い出した。
めまぐるしくも、えげつない攻防は面白く読めた。他人事として、だけれども。

 裸の王様 
 絵具メーカーの息子と絵の先生との交流。
自己の意思を発揮する前に、
大人の都合に呑まれていく子供の心を開いていく過程を書いているのだが、
お仕着せの価値観から脱する絵を描かせようと、
目いっぱい子供を操る先生も同類だったりする皮肉。

 このように、比較的重いテーマの話が続く本作。
あくまでも社会を俯瞰した目線が存在しており、登場人物に感情移入は出来にくいが、
現象の行く末が気になってどんどん読めてしまう。
作者は本作発表後、ヴェトナムの戦場に赴き取材をして作風を更に変えるとのこと。
機会があればそちらも読んでみたい。
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