湯本香樹実/ポプラの秋

湯本香樹実/ポプラの秋
1997年 日本
218p 読書期間1週間
『少しずつしか変わっていかない日常での感動』

 前回の『されどわれらが日々』が非常にまじめ、
すなわち硬質だったので、次は柔らかいものを、ということで、図書館を物色。
適当に棚から抜いたら本のカバー絵が柔和で鮮やかなこの本が飛び出してきました。

 初めて読んだ作家さんです。テレビ、ラジオの脚本家出身の小説家とのこと。

 さて、本作のあらすじを少し。
主人公は7歳の女の子。父親を亡くしたばかりの母子がアパートに移り住み、
そこの大家さんであるおばあさんや住人との交流を描いたおはなしです。
おばあさんを介して、亡き父への手紙を書くという行為が話の中心になっており、
気持ちの整理や成長が描かれています。

 表紙、タイトル、設定を踏まえて童話っぽいものをイメージしていたのですが、普通の小説でした。
ラジオドラマの脚本の如く、会話が多く流れるような文章が素晴らしい。
気持ちよく読み進めることが出来ました。

 いい話だ。読了感も爽やか。
成長した主人公が再び人生の岐路に立っているところで終わるのもいい。

 実際、普通にアパート暮らしをしていても、
この時世では、本のような交流はなかなか生まれないだろうとは思います。
自分は下宿暮らしをしていた経験があるので、その頃の楽しい思い出が少し思い出されました。
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柴田翔/されどわれらが日々

柴田翔/されどわれらが日々
1964年 日本
269p 読書期間2週間
『まじめすぎる』
 
 学生運動が盛んであった60年代から70年代に掛けて、多くの若者に支持を受けていた青春小説。
その事実を聞き、当時の学生気分を少しでも理解できないものか。
そうすれば、当時の日本語フォークを聴くときに違った聴き方が出来るのではないか、
と思って借りてみました。

 主人公の文夫と、婚約者である節子による恋愛小説となっています。
学生運動に見た理想(それは巻き込まれただけの受け身なものだったりします)
は崩壊して、その後の人生をどうするのか。
そこがテーマとなっています。
疑問を捨てて、あきらめ、妥協をする。経て
安定した形式に収まって社会のルールに取り込まれていこうとする主人公。
恋愛、結婚に於いても同様の道を進もうとしています。

 一方の節子も同じ境遇だったはずですが。。。

 結局、すっぱりと裏切られてしまう文夫。
しかし、晴れ晴れとした気持ちで結婚から逃げた節子を祝福します。

 次々に新しい出来事が起きスラスラ読めました。
物語としておもしろいことは間違いありません。

 そのうえで感想です。
まず。皆、まじめに考えすぎて悩んでおり、とにかく暗い。
しかし、高齢者の考えが国の中心になっている現在の日本では、
このような悩みすら若者は持てないのかもしれない。
また違う悩みがあるのでしょう。

 そして節子。マリッジブルーよろしく逃亡するわけですが・・・・・・
やはり男の身からすると、恐ろしい所業としか言えません。
文夫は節子のことを我々の世代の殻を破るとか言っていて
それは一理あります。
ただ、それよりも「女心と秋の空」の如き、心の動きが恐ろしい。

最初はあきらめた者同士で連帯していたじゃないかー。

当時の学生気分も少しは分かった気がします。
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フリーマントル/別れを告げに来た男

フリーマントル/別れを告げに来た男
1973年 アメリカ
中村能三訳 234p 読書期間14日
『秘書を攻めきれない主人公が愛らしい』

 人物描写に定評があるミステリー作家の処女作にして代表作。

 宇宙開発の指導者がソ連からイギリスへと亡命して来た。
主人公の取調官は裏に何かたくらみがあると感じ取るが・・・・・・というストーリー。
こうやって書くとありがちですが、実際読んでみると、よりオーソドックス。
それなのに先が気になる、という巧い歌り部っぷりが発揮されています。

 先述した通り、人物描写が素晴らしく特に欠点の書き方が素晴らしい。
取調官と上司、取調官と秘書、取調官と(彼と)離婚したい妻、
といった本筋から逸れた肉付けとなる日常でのコミュニケーションが楽しいです。

 果たして亡命者の目的とは、という部分について、それほど意外性はありません。
しかし、哀愁漂うラストは良かった。
ハードボイルドの名作としても有名な本作ですが、雰囲気も抜群にかっこいいです。
文量も控えめでさっぱり読めてしまうので、時間が無い時の読書にもおすすめ。
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ローレンス・ブロック/八百万の死にざま

ローレンス・ブロック/八百万の死にざま
1982年 アメリカ
田口俊樹訳 343p 読書期間14日
『シンプルに面白いミステリーでした』

 再びミステリー小説。
ハードボイルドな物語を得意とするローレンス・ブロックの代表作ということで入門してみました。

あらすじ:探偵マット・スカダーは足を洗いたい、という娼婦キムの相談に乗っていたが、ある日キムは殺されてしまう。マット・スカダーはキムのヒモ、チャンスの仕業だと疑うが、逆にチャンスから真犯人を探すように依頼をされてしまう・・・・・・

 過去に自身が引き起こした事故で、子供を死なせてしまったことを悔いており、
アル中になってしまう主人公スカダー。
そこから脱しようとして、日々葛藤しており、ある日は飲んでしまったりする。
そんな人間臭さが魅力となっています。
気取り過ぎな主人公はそれでもかっこいいし、
ヒモのチャンスを必要以上に恐れてしまうキムの臆病さにも人間臭さを感じました。

 風景や生活の描写が細かく、
退廃的な日々をリアルに感じることが出来る文章はさすが人気作家だと思いました。
訳者の力量も含めて、平易な文章はとても読みやすいです。

 犯人捜しの過程、解決に関しては
残り数ページで一気に済んでしまうのでいささか拍子抜けではあります。
しかしこれはあくまでも物語を楽しむのが筋なので十分満足しました。
シリーズ物とのことなので機会があれば他のものも読んでみたいと思います。

 事件はきれいさっぱりと解決するも、自分自身を苦しめるアルコールの問題には全く回復の兆しなし。
それでももがいている主人公の姿に釘付けになりました。
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火刑法廷/ジョン・ディクスン・カー

火刑法廷/ジョン・ディクスン・カー
1937年 アメリカ
小倉多加志訳 341p 読書期間15日
『魔女はいます!!』

 魔女はいます、なんて書いてしまったらネタバレなのですが書かざるを得ません。
「魔女はいます!!」

 密室殺人を扱う推理小説家として大人気のジョン・ディクスン・カー。
その代表作と呼ばれているのが本作です。チョー有名なので読んでみました。

あらすじ
 エドワード・スティーヴンスは出版社に勤めている。
ある日、彼が会社から受け取った人気作家の原稿には資料が付いていた。
それを見るとそこには十七世紀の殺人犯として、
彼の妻そのものの写真が添付されていたのだ。
そんな時、隣人の老人の死が毒による殺人事件だと分かり、
妻は何故か失踪してしまう・・・

 怪奇とミステリーの融合、というだけある内容。
緻密な論理立てが少々難解で読み進めるのに苦労しました。
ただし、さすがに名作。お話自体が大変面白いのでグイグイ惹きこまれました。

 きちんと登場人物それぞれに役割があり無駄のない配役が素晴らしい。

 推理のトリック自体がとても緻密な為、解決パートはイマイチ理解できませんでした。
インターネットの解説ページを読んで、初めてすっきり理解出来ました。

 そしてエピローグ。これをアリとするか、ナシとするかで物語の質が変わるわけですが・・・・・・
僕はややこしいトリックに没入できなかった分アリとしました。
「魔女はいます!!」ということで。

大いに驚かされ、楽しませていただきました。
推理小説好きなら一度はどうぞ。
他の作品にも機会を見て触れてみたいです。
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